「豊かな食文化を未来に繋ぐ」
使命感から生まれた「世界初」
近畿大学水産研究所がこうした研究に邁進してきた背景には、日本の食糧問題や水産資源の将来への強い懸念があります。かつて「お魚大国」と呼ばれた日本でも、乱獲や海洋環境の変化により、漁獲量はピーク時の3分の1にまで落ち込みました。食料自給率の低下や、世界的な水産物需要の高まりによる価格高騰リスクも無視できません。
こうした状況の中で、「豊かな食文化を未来に繋ぐ」という強い使命感のもと、天然に頼らずとも、持続可能で高品質な魚を安定的に提供する技術の確立を目指し、いくつもの「世界初」を生み出してきました。ヒラメの人工ふ化による種苗生産(1965年)や、クロマグロの完全養殖(2002年)はその代表的な例です。
さらに、環境に配慮した養殖法の研究にも取り組み、天然資源の枯渇を防ぎ、高級魚を安定的に供給するため、「完全養殖」の研究に取り組んできました。従来の養殖は、「天然種苗」と呼ばれる天然の稚魚を海から捕獲して育てる方法が主流でした。それに対して「完全養殖」は、人工ふ化した仔魚を親魚まで育て、その親魚から採卵し、稚魚まで育てた「人工種苗」を使って養殖するものです。人工ふ化で育てた親魚から次の世代を生み出すサイクルであり、その稚魚を導入することで天然資源に依存しない持続可能な養殖が可能となります。